一杯の珈琲から

Date
3月, 16, 2018

著者:エーリヒ・ケストナー
訳者:小松太郎
出版社:東京創元社

発行日:1975年9月26日
形態:文庫

 

お洒落な恋愛小説。似合う音楽はオーケストラじゃなくて、軽快なバイオリンのソロ。似合う演劇はもちろん喜劇。街と人への愛情、それを受けての筆致、を学んだ。

『飛ぶ教室』で知って、「エーミール」シリーズでとりこになったケストナー。登場人物へのあたたかいまなざしも、気の利いたユーモアも健在。読むのが楽しみな作家を見つけられて幸せ。

毎日の日記と、読者への手紙、といった構成。欠点もあるんだろうけど、愛すべき主人公。 その辺探すと実在しそうな人々。職業や趣味・特技の描写、会話の仕方、物事の観察の仕方、感動の膨らみ方。

ユーモアは1日2〜3回といったところ。ユーモアで世界をとらえるのは、一種の比喩だと思った。

8月21日の「眠れない」と、8月30日の「おじいちゃんになるんですよ!」がすき。

街や物への敬意には学ぶことがあった。作品に登場させる、つまり情報を選択的に加工するということで、どこにでもありそうな自然風景や見慣れた町並みが、フィクションの色を帯び、そこに存在する意味、登場する意味あるものとして、全体構成の一助となる、んだなあ。きっと。

「わたしたちは街をうろついて、門や中庭を覗きこみ、木の階段だとか、バルコニーだとか、拱廊だとか、芸術的な集会所や旅館のマークだとか、建物の壁の凹んだところに描かれた聖者だとか、棟の凹みに描かれたユーモラスな無邪気な格言だとかを見てよろこんだ。私たちは何でも古いものでさえあればよろこんだ!」

「なぜならいつ見ても、古いものは目新しかったから。それはザルツブルグばかりではない。昔の時代のものはどんな窓台にも、どんなドアの錠にも、どんな煙突にも、どんなストーヴのタイル煉瓦にも、どんな椅子の脚にも、物に対する趣味と技量の愛情が露われている。建物に対する、服装に対する、またごく些細な家具に対する、職人と持主の両者の関係が重要視されたのはビーダマイヤーまでであった」