著者:アゴタ・クリストフ
訳者:堀茂樹
出版社:白水社
発行日:2006年3月5日
形態:単行本
私が『悪童日記』を手に取った頃に、作者は亡くなった。1ヶ月後、同じ本に「追悼」と書かれた帯がついているのを見た。追いかけていくように、3冊の小説と、この自伝を読んだ。
言葉が淡々としている。1ページの文字数は少ない。感情をそのまま書いたりしない。
「何か読むものが手元にあるかぎり、街灯の明かりを頼りに読み続ける。そして涙にくれながら眠りに落ちる頃、いくつかのフレーズが闇の中に生まれる。それらがわたしの周りを飛び回り、囁きかけ、律動を生み、韻を踏む。歌い出す。詩になる」
亡命した先の、きわめて安全な環境に、居心地の悪さを感じること。ゆっくりとすぎる時間の波に、流され、沈みそうになり、浮かび続けたこと。
文字は、言葉は、動力だと思った。前に進むための動力だ。言葉は、次へ進むための動力にすること。意図的に使うこと。
「人はどのようにして作家になるかという問いに、私はこう答える。自分の書いているものへの信念をけっして失うことなく、辛抱強く、執拗に書き続けることによってである、と」