読むことの可能性 文学理論への招待

Date
2月, 06, 2019

著者:武田悠一
出版社:彩流社
発行日:2017年8月25日
形態:単行本

 

<前置き>
文学を学びたい。英文科卒だけど、言語学に夢中だったので文学史と原典購読しか知らない。「おもしろく読む」のひとつ方法として、道を辿ってみたい。

本を探し始めたら、文学理論、文芸批評、批評理論、などの言葉が出てきて混乱した。何と何が入れ子で、どっちが上位概念かがわからず、全体像が見えない。それをずばり説明してくれる本やウェブサイトも見つからない。

というわけで、「文学を学ぶって何?」から始めることになった。大学のシラバスを読み返したり、国内外の本の目次やウェブサイトを片っ端から見たりした。その結果、とりあえず次のように分けられるという理解をした。

① 文学史
時代、潮流、作家、作品などの史実を時系列・カタログ的に並べる。

② 文学理論
文学そのものを問う。理論の構築。Literary Theory。

③ 文芸批評
個々の作品を扱う。理論の実践、応用。Literary Criticism。

*英米文学史の知識があるのは助けになった。
*②と③を区別するかには賛否ある。私は一旦分けておく。
*②は日本語で(文学の)批評理論と言われるものと同義だが、英語でCritical Theoryとなると、社会学的な意味が強くなる。
*個々の作品研究は、目的を変えながらも昔から行われてきた(多くのバリエーションがある中で正本を突き止めることや、宗教的・美的な意味を見出すことが主目的の時代もあった)。②の文学理論は、20世紀に入って盛んになったもの。
*Criticismの定義や歴史や使われ方は、複雑かつ曖昧な部分もあるので、まだ自分の言葉で言うことができない。

 

<本題>
南山大学で長く英文学の教鞭をとっていた著者による、文学理論の実践的なガイドブックである。「文学の言語」、「テクスト理論」、「受容理論」、「構造主義」、「脱構築」、「精神分析」を扱う。文学理論の主要な本としては、イーグルトンの『文学とは何か』が有名だが、初心者には難しいし、出版から年数が経ってるし、外国の文学のみの扱いである。イーグルトンの考えを継承しながらも、難しすぎない構成・語り口で、日本の小説や、映画を含めて説明してくれる、最近出版された本を望む人に最適。注、Q&A、参考文献も充実。

「文学理論」とは、ひと言で言えば、「文学」がどのようにして生み出され、受容されてきたか、また現在どのようにして書かれ、読まれているか(または読まれていないか)を理論的に考察することです。(p.17)

わたしたちが目指しているのは「文学」を固定的に定義することではなく、むしろその多様性を認識すること、つまり、「文学」という概念はけっして普遍的なものではなく、歴史的に変化してきており、また今も変化しつつあるということを確認することなのです。(p.21)

「文学」を特権化するのではなく、他の文化領域と関連付けて文化論的に捉えること、これが最近の文学研究の傾向です。(p.19)

理論を毛嫌いするのではなく、よりよい理論をもつこと。自分が無意識のうちにどういう「理論」に囚われて読んでいるかを真摯に反省すること。それこそが真に「理論的な」態度であり、わたしたちが目指しているのも、まさにこういう姿勢で読むことなのです。(p.26)

なお、2018年12月には続編『差異を読む』が発売になっている。そちらでは脱構築以降の、「フェミニズム」「ジェンダー」「クィア」「ポストコロニアル」「アダプテーション」を扱う。