春にして君を離れ

Date
12月, 04, 2020

 

著者:アガサ・クリスティー
訳者:中村妙子
出版社:早川書房
発行日:2004年4月15日
形態:文庫

ABSENT IN THE SPRING
by Agatha Christie
1944

 

アガサ・クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で出した作品。
彼女の作品は、『火曜クラブ』の原文の一部を大学の授業で読み、『そして誰もいなくなった』をドラマで観たことがあるくらい。
日本語でじっくり読むのは初めて。

 

Q:数ある作品の中から、1冊目をどう選んだか。
A:タイトルにひとめぼれ。 “Absent in the Spring” を『春にして君を離れ』って訳すの、すごく好き。

 

登場人物は、すぐに覚えられるくらい少ない。
主人公の主婦ジョーンが、旅の帰り道、悪天候に足止めをくらう。
いつ次の電車が来るかわからない。
持ってきたわずかな本は読みつくしてしまい、同じパターンの食事にも飽き、時間を持て余す。

 

散歩をしたり、手紙を書いたりすることが、今まで周りの人々にしてきた言動や自己認識を内省する機会になる。
幸せだった結婚生活。
自分が立派に育てあげた子どもたち。
本当にそうだった?
浮かんだ疑問が、ジョーンの存在を脅かしていく。

 

ある決意をして、待ちに待った電車に乗って、相席した婦人サーシャと話し、帰宅して、夫に会うまでの描写がうまい。

p.290
サーシャは重々しい口調でいった。「神の聖者たちにはそれができたのでしょうけれどね」

 

誰も死なないのに怖い。
特に最後が怖い怖い怖い。