外は夏

Date
8月, 25, 2019

著者:キム・エラン
訳者:古川綾子
出版社:亜紀書房
発行日:2019年7月26日
形態:単行本

바깥은 여름
by 김애란
2017

 

セウォル号事件のあと、「セウォル号以降文学」という言葉ができたと知ってから、韓国文学に興味をもっていた。何を最初に読もうかと迷う時は、単純な接点を利用しがちだ。私は本屋にいて、外は夏だった。

この短編集は何かを失った人たちがテーマ。次の季節を受け入れられない人たちを書きました。 (P.283)

短編集。「立冬」は子を亡くした親の話。「ノ・チャンソンとエヴァン」には父と飼い犬を失った少年、「向こう側」には愛情を失ったカップル、「沈黙の未来」には絶滅危惧種の言語、「風景の使い道」にはよその家の人になった父親、「覆い隠す手」には老人の傷害致死事件を目撃した息子と母親、「どこに行きたいのですか」には夫を亡くした妻が出てくる。

何かを失った人の周り、つまり社会制度、貧困、根拠のない噂を流したり、意地悪をしたり、最初こそ悼みの言葉をかけるがしばらくすると攻撃してくる人の存在に気が滅入る。日本と違う国だなと思う。台所で米を研いだり、わかめの水気を絞って鍋に入れたり、家族の帰宅に合わせて食卓を湯気で満たしたりするシーンは、近い国だなと思う。複数の話で印象的な役割を果たすスマートフォンからは、同じ時代の話だと思う。待てよ、気が滅入る描写はちょっと言葉づかいを替えれば日本のことじゃないか。

「ノ・チャンソンとエヴァン」ではお金を切り崩していく様子が、「沈黙の未来」では博物館という設定が、「覆い隠す手」では少年が隠した表情が、表現として絶妙。「どこに行きたいのですか」では、沈黙に呼応したsiriと、「なんと申し上げていいのかわかりません」の展開が好き。

読んでいる途中、とてもそわそわして、集中力が続かない日があった。何があった?と理由を辿っているうちに、この本だとわかった。登場人物のひとりが私の近くにいた人に似ている。共通点に、無意識に不安になっているあたり、私もこの本の登場人物たちのように、まだどこに行きたいのかわかってないのかもしれない。

ある話の中の1月、休暇でタイに行った男性が、雪の降る韓国の情報をスマホで見て、スノードームを握っているようだと言った。車窓から見えるのは夏。私は季節差のある生活をしていないけど、夏、窓とカーテンを閉め切ってクーラーを効かせた部屋を連想した。しばらくしてカーテンを開けた時の眩しさ、道路のアスファルトに浮かぶ陽炎。

外「は」、夏なのだ。

 

 

2019-08-19