いつも大切なことを教え、気づかせ、思い出させてくれる友人へ。文章は本来、誰か一人に届けば、あるいは過去や未来の自分に届けば充分だとあらためて思った。燦燦と進むんだ。
flamboyant
(of a person or their behaviour) tending to attract attention because of their exuberance, confidence, and stylishness.
人や態度が、あふれるエネルギー、自信、かっこよさゆえに目をひくこと
ORIGIN: mid 19 cent.: from French, literally ‘flaming, blazing’, present participle of flamboyer, from flambe ‘a flame’.
フランス語 flambe「炎」や flamboyer「燃えるように輝く」に由来する
ページをめくると、‘Do it flamboyantly’ とあった。音で、フランス語由来だと当てた。飾り気のない ‘Do it’ に、‘flamboyantly’ が紅をさす。美しい炎。気がつけば、コーヒーを飲みほすまで見とれていた。慌てて支度を始める。
昔から、比喩表現が好きだった。直訳と実際の意味に飛躍があるといい。たとえば ‘have butterflies in one’s stomach’(お腹の中で蝶が羽ばたいている)は、「そわそわして落ち着かない」の意味。辞書で見つけた時、たちまち蝶が現れて、私のお腹に入り込み、鼓動を急かした。あるイメージに魅了されると、保温マグさながら、昼夜興奮が冷めない。
同期入社のみきは、見るからに血のめぐりがいい。止まっているより、動いている。風を切って走る。軽快、快活、活発。彼女だけ、重力のかかり具合が弱いのかもしれない。英語が堪能。留学経験あり。見ている世界が広く、考え方まで筋肉質。
会社で働くとは、言葉を覚えて使えるようになること。会社員として言葉を覚え、使い方に慣れ、何を口にして、口にすべきでないかを知った。説明と説得の腕を磨いた。消化されやすいように噛み砕いた言葉を、よどみなく饒舌に発するたび、言葉と体が私のものではないように感じて、黙りたくなった。
彼女は海外向きで、私はそもそも組織向きではないと、私たちは早い時期に気づいていた。もしかしたら、新しいものをつかめるかもしれない。期待とは裏腹に、仕事に精を出すほど、社内のキャリアに限界を感じた。手持ちの言葉を組み替えて、解を見つけようとした。別々の部署で、同じような悩みを抱え、似たような逃げに走ろうとした。いつも踏みとどまった。外に出るのが怖かった。互いが互いの中に、自分を見ていた。相手の後押しもできず、くすぶっていた。
入社して6年。ひょんなきっかけで、私が先に出た。もっと言葉を探究しようと決めた。それから2年、彼女も出て、海外で働くと決めた。
セーターが似合う季節。編み目に太陽を透かした、彼女を見送る日。出かけに見つけた、‘flamboyantly’ の話をした。組織を出たら、好きだった感覚が戻ってきたんだよと。彼女は、単語を繰り返し発音して、「ああ」と言った。やわらかくほほえんで、「じゅんこらしいね」と続けた。
「ねえ、‘flamboyantly’ にがんばろうよ」
「それはいいね」
別れるまでの道で、初めてツーショット写真を撮った。初めて化粧品の話題で盛り上がった。ツヤの出る、化粧下地の話。日に焼けた、化粧っ気のない彼女の頬を見ながら、内心、わざわざ仕込まなくても人は光を放つと思っていた。ふたりで「女友だちって感じだね」と笑った。
私たちをがんじがらめにする言葉、体裁を繕う言葉、嘘、理不尽な言葉、偉い人たちの言葉、キーワード、キラーセンテンス、若者だから、女性だからと押しつけられたアドバイス、コピーアンドペーストでむやみに増殖していく流行り言葉、機嫌をとるための言葉。評価、褒められた時の言葉、寄りかかっていた言葉。そんな言葉でいっぱいの、用語集代わりに使ってきたノートを、たき火に薪をくべるように、ゆっくりと破って燃やした。
新しいノートに ‘flamboyantly’ と書いて、私たちは歩き始めた。燦燦と進むのだ。
協力
絵 ふない ななこ
写真 Y