独学のすすめ

Date
8月, 24, 2018

著者:加藤秀俊
出版社:筑摩書房
発行日:2009年11月10日
形態:文庫

 

リースマンの『孤独な群衆』の訳で知られる、社会学者のエッセイ集。婦人誌に掲載されていたこと、訓読みにはひらがなを使うこと、キュートな挿絵の影響で、終始朗らかな印象を受ける文章だ。

好きなのは「『専門』とはなにか」。

「プラトンが、おれは「哲学者」なのだから、「専門」外のことは何もしらないよ、などと開きなおっていた、とはわたしには思えない。かれに「哲学者」という名前をあたえたのは、要するに、後世の人々なのであった。 それとおなじことで、ダ・ヴィンチもまた、みずからをなにがしかの「専門」に閉じ込める、ということはしていなかったのではないか。かれは、あらゆることに興味をもち、その興味のおもむくままに、あらゆることをしてみた、というだけのことなのである。「専門」という名の、ふしぎな制限をもたなかったことがあの、のびやかで雄大なひとりの人物をつくったのだ。学問とか知識とかいうものは、実際は茫洋としていて、どこにも境界線なんか、ありはしない。もろもろの「学」というのは、いわば、羊カンを切り分けるごとくに、人間のがわが勝手にその茫洋たる世界を便宜上、わけてみたということにすぎないのであって、学問そのものが、はじめからバラバラに存在していたわけではないのだ。」(p.206)

「学問といい、教育といい、そこで人間が目標とするのは、多面的な人間像であろう。切り分けられた羊カンだけにしか興味をもつことのない「専門バカ」をつくることは、教育の目標ではない。」(p.207)

羊カンは、一本まるまる買ってきて、好きに切り分けて食べたい。