浴室

Date
10月, 20, 2018

著者:J・P・トゥーサン
訳者:野崎歓
出版社:集英社

発行日:1994年11月25日
形態:文庫

 

主人公の男が浴室にひきこもって暮らす話(すぐに浴室を出るけど)。何も始まらないし、終わらない。たぶん好きな人はとても好き、嫌いな人はとことん嫌いな感じ。

初めて読んだのは高校生の時で、「起承転結がない」とだけ記憶していた。久しぶりに読んだら昔より好きだった。解説に、主人公は「へそまがり」とあるのだけど、語りも行動もそんなにひねくれてはいない。私もそこは帰るよとか、そう返答するよと思うので、私もへそまがりなのかも。

なぜ浴室にこもるのかの理由もなし、未来の展望もなし。独特の比喩や難しい言葉の意見陳述などもない。さっぱりとした、実験的な小説。

(10) 浴槽の縁に腰掛けて、エドモンドソンに、二十七にもなって、そのうち二十九にもなろうというのに、浴槽の中に閉じこもりがちの暮らしだなんて、あんまり健康とは言えないな、と話した。目を伏せて、浴槽のエナメルを撫でながら言った。危険を冒さなきゃだめなんだ、この抽象的な暮らしの平穏さを危険に晒して、その代わりに。そこまで言って言葉に詰まってしまった。

(11) 翌日、ぼくは浴室を出た。