マルテの手記

Date
7月, 22, 2018

著者:リルケ
訳者:大山定一

出版社:新潮社
発行日:1953年6月10日
形態:文庫

 

骨が折れる。疲れる。若い詩人マルテの手記、という形をとった小説。マルテの横について、パリの街、病院、昔住んだ家や訪れた場所、などを歩く。たいした情報ではないように(実際通読すれば些細な情報なのだが)、道中で人と出会っても、マルテとの関係をろくに教えてもらえないまま進む。しばらくして思い出したように「そういえばあの人は~」と話し始めるものだから、たいへん混乱した。私には登場人物のメモが必須だった。

第1部のテーマは「見ること」。荒れた街、今は亡き家族、自らの病、みじめな人々からなる悲しい光景が、見ようとしなくてもマルテの目に入ってくる。受け身でいる。同時に、それらの光景を積極的に見よう、能動的に観察しようともする。この「ネガティブと対になったポジティブ」、「対になっているゆえに、明確で安定」という構図が、第2部のテーマ、「死と愛」でも引き継がれる。終始一貫した暗さに引きずられず、表と裏の関係、暗さから明るいものを見出すことが読みのポイントだと、あとがきで知った。