高校生のための批評入門

Date
5月, 24, 2018

編者:梅田卓夫、服部左右一、松川由博、清水良典
出版社:筑摩書房
発行日:2012年3月10日
形態:文庫

 

四半世紀前、愛知の高校の先生たちが編んだ本。「批評」をジャンルではなく、「私」を生成する精神の働きととらえ、評論、小説、対談、紀行文など、幅広い作品をアンソロジーとしてまとめている。

「批評なくして評論は成り立たないが、批評じたいは文章で表現されなければならないという訳ではない。人が事物に対して、他者に対して、あるいは自分に対して、ひいては世界に対して抱き持つ精神の働きなのだ」

数ページ単位の「本文」が51作品あり、それぞれに編者からのメッセージ、著者プロフィール、出典、注釈、そして問いがつけられている。その問いを自分で考えてから読むのが、巻末の「思索の扉」だ。巻末といっても、本全体の3分の1を占める。「本文」のキーワードや読み方について深めたり、反省したり、さらなる問いを得たりするのに役立つ。ページを行ったり来たりしながら、授業を受けている気分になる(私が受けた国語の授業は、受験対策が主で、便宜的な正解を見つけるようなものだったけれど)。

「本文」の作品で私が好きなのは、スーザン・ソンタグ『隠喩としての病』、黒澤明「長い話」、フランツ・カフカ「掟」、米文学者の藤本和子が『塩食う女たち―聞書・北米の黒人女性』におさめた、ユーニス・ロックハート=モスへのインタビュー、「接続点」である。

答えは一つも教えてくれない。代わりに、多様な問い、視点、考え方、ブックリストを授けてくれる。