知らない人に出会う

Date
8月, 24, 2018

著者:キオ・スターク
訳者:向井和美

出版社:朝日出版社
発行日:2017年7月15日
形態:単行本

 

「本書のテーマは、話すことだけではなく、見ることや聞くこと、そしてこの世界に対して敏感になることである。ほんのちょっとしたやりとりが、どれほど詩的で奥深いものになりうるかをわかってもらいたいし、読者には、知らない人への理解を広げ、考えを深めてもらいたい。また、街中でやりとりする際の、目に見えない心の作用や意義を伝えたい。本書を読んで、この世界に恋をするための新しい方法を知ってもらえたら、これほどうれしいことはない。」(p.12)

2012年に発売された “Don’t Go Back to School: A Handbook for Learning Anything” の著者プロフィールに ‘She talks to strangers’とあるので、彼女は長年日常的に知らない人に話しかけているんだろう。日常生活で、楽しみながら、リラックスしながら社会学のフィールドワークをおこなう様子が、本書からもうかがえる。2016年9月にTEDの講演、およびTEDブックスとして発表され、2017年7月に日本語訳が出版された。

私は組織の仕事を離れてしばらく経つ。体力づくりのジムと、買い物と、散歩で外に出る。イヤホンをつけず、ゆっくり歩いて、町や人や景色を観察することにしている。会社にいたときよりも、知らない人に意識的だと思う。挨拶したり、会釈したり、アイコンタクトや笑顔を向けたり、話しかけたり。

ジムの待合エリアで、テレビを見ながら年配の方と話しこむ。熱中症がなんとかかんとか。ストレッチエリアで、体をほぐしながら、同じくこれからトレーニングを始める様子の人に挨拶する。水飲み場で喉を潤したあと、次に並んでいた人に微笑む。微笑みが返ってきて、「あっついねーっ」と言われる。帰りのスーパーで、「野菜が高いわ」とつぶやく人に、困り顔でうんうんと同調し、「仕方ないね」と話して別れる。レジであせる研修生にお礼を言うと、彼は顔を上げた。一瞬見つめられ、思わずお互い驚く。目の前の狭い道から道路へ合流しようと、タイミングを見計らうトラックのおじさん。急いでないんで大丈夫ですと言いたい気持ちで待っていると、出発のとき、申し訳なさそうな、でもうれしそうな会釈をくれた。

知らない人との、何気ない、期待や評価が入らない、ひとときの関係。それが好きな人は、この本を楽しく読むだろう。苦手な人は、彼女に教えられること、ほぐしてもらえることがたくさんあるだろう。彼女はきっと、あなたに話しかけたくて、読んでもらいたくてうずうずしている。街で偶然出会って少しおしゃべりするような、気張らない気持ちで読むといいと思う。