五つの証言

Date
4月, 16, 2018

著者:トーマス・マン、渡辺一夫
出版社:中央公論新社
発行日:2017年8月25日
形態:文庫

 

戦時中の、狂信主義へのアンチテーゼ。渡辺が訳したトーマス・マンの文章に、渡辺の有名なエッセイ「寛容について」が合わさった構成の文庫。

戦争と比べるのはよくないかもしれないが、私は組織の中での人の機械化と重ねて読んだ。言葉は記号なので、定型的に使われるのが当たり前の、いちばんの役目だ。いちいち意味を確認していたら話が進まないので、何を言葉にするかも、選び方も、組み合わせ方もやりとりも、形式的にならざるを得ない。ただ、多様な人々がいるのに、言葉の定型性に引っ張られ、使い方、つまり物の見方が「これでいいや」「これくらいで」「いつもと同じように」という定型のまま死んでしまってはいないか。機械のように、命令を受け、いつもと同じことを繰り返し、新たに考えることを放棄してはいないか。

対立している(ように見える)概念があるとして、どちらか一方の様子をあるがままに調査し、共に流れていくのでもなく、片方の側に立ってもう片方を批判するのでもなく、両者の抽出物から新しいものを作る方法はないものか。

「たとえ、それが、いかに甘く、かつ無力でありましょうとも」

なお、渡辺は基本的に低姿勢を貫く。そこに対するつっこみ、中野重治との書簡における「仮定法」へのつっこみには「どこつっこんでんねん」と少し笑った。