共感を通り過ぎた先で

共感されないことを、よりどころにしている。

 

繰り返してきたパターン。ありものを口に入れ、咀嚼し、飲みこみ、出てくる感情を注視する。食わず嫌いだったのを反省するくらい嬉しいとか、言葉にできないけど変な感じとか、ひどいアレルギーのような憤りとか。出てきた感情をエネルギーにして、ありものを変えたり、新しくつくったりする。

大勢の人が話す、ありものの言葉。求めていたものと、偶然ぴったりと合うことがある。手っ取り早く飛びついて、信じ、無意識にだまされることもある。いずれにしても、使う人たちは同じ言葉を共有し、共感しあう。そこは心地いいし、安心できるし、自信ももてる。

私も初めはとりあえず、大勢の人が話す、ありものの言葉を使う。使って、違和感をおぼえて、横を通り過ぎることになる。何度も繰り返していれば、使う前から「たぶん違和感を抱くだろう」と先を読めるようになる。それでも一度は体に入れて確かめるのは、通り過ぎた先にあるものが欲しいからだ。

 

上司とうまくいかず会社を辞めようと思ったときも、まずはよく聞く言葉を体に入れた。「やりがいがない」「ロールモデルがいない」「先が見えている」「もっと好きなことをやりたい」「成長したい」「モチベーションが上がらない」とか。しっくりさせようとしてもしなくて、頭の中で論破が進んだ。

・やりがいがない、先が見えてつまらないなら、自分で新しくつくればいい。
・人事の仕事は「昔からやりたかったこと」ではないが(就活するまで知らなかった)、言葉を使って研修をつくる、という意味では、やりたかったことのど真ん中である。興味の対象が「言葉」なので、幸か不幸か、何をしても昔からやりたかったことになる。
・ロールモデルがいないなら、自分がなればいい。
・成長は、何をもって成長か。毎日必死に生きていて、前よりはいい状態だ。というか、若者が典型的に陥るこの状況を、他と違う形で脱するのも成長の手段だ。
・優秀な人ほど、モチベーションの上がり下がりに影響されず、毎日淡々と仕事を仕上げていく。モチベーション論はナンセンス。
・「今の若い世代は、前の世代と違って安定を求めず、挑戦を好む」という言い回しもよく聞くが、仮想敵をつくって仲間意識を高め、自己肯定したいだけだ。これを繰り返しているという意味で、他の世代論と変わらない。
・安定した場所には、保守性もあるが、蓄えてきた設備、技術、知財、人材、キャッシュ、社会的信用もある。使いようだ。挑戦に利用するために、安定した場所を選んだ人は多くいる。

すべて辞める理由にならない。

 

そうして私は、一度体に入れた「辞める理由」「働く理由」を出し、通り過ぎた。逃げようとしていただけだと気づいた。若者をむやみに煽る人たちにいらだった。「共感されないような、自分の切実な理由にいたることができたら、それを信じて辞めることにしよう。どこかで聞いたストーリーや、多くの人に共感されるものは、おそらく “私にとって” 嘘だ。それまではできることをやりつくそう」と決めた。入社理由を思い出し、言葉を更新した。

 

・2009年面接時: 「ひとりでやっていたものづくりを、人と一緒にやりたい」
・2011年: 「自分のものづくりの方法、つまり言葉や意味やイメージを手がかりにものをつくることが、社会で通用するのか、人と協働することができるのか、何が喜ばれ、何が喜ばれないのか、始まりから終わりまでに何が起こり、私が何を感じるのかを仮説検証したい」

 

6年経ってこの仮説検証が終了し、次の目標ができ、次に行くことにした。社会学のフィールドワークのように、ある場所を調査して、終わったから次、というのが、「私の」「20代の」働き方と辞め方だった。

 

大勢の人が話す、ありものの言葉、ストーリー。求めていたものと、偶然ぴったりと合うことがある。手っ取り早く飛びついて、信じ、無意識にだまされることもある。そこを通過して、手にできる言葉もある。共感されること同様に、共感されないことも心のよりどころになるのだ。

 

 

生活模様

風呂の壁の写真をアイキャッチに撮ってから、生活の中の模様に夢中。

日光が透けるカーテン、リバティ柄の布、スエードのソファ、角を合わせてたたんだブランケット、友人が持ってた刺し子、着古した甚平、タイルでつくったコースター。

りんごの皮、小松菜の葉脈、上からのぞいたパックの貝割れ大根、グリルの網、撒き散らした打ち粉、トレイごと冷凍したひき肉、溶きほぐした卵、冷蔵庫の卵入れ、マヨネーズのふたのギザギザ、ミルの中のホールブラックペッパー、角型ホットプレートに広げたニラ焼きそば。

おろしたてのスポンジ。勢いよく握って飛び出た、細かいシャボン玉。

サンダルの底、エスカレーターの足元、おむすびの陳列、切ってない角形食パンの陳列、かき揚げの陳列、敷き詰められたキムチや白和え、大きなチーズの表面。地下街の床、店のシャッター。

見えない作り手、使い手、暮し手の指紋。

親指と人差し指のファインダーを満たして、ぱちっと1枚撮るんだ。

 

 

あまちゃん

今日は詩の気分。無限ループ。

 

存在に潜って言葉を探すとき
涙 鼻水 冷や汗 胃酸が
体じゅうを
満たしていきます

ほんとうに泣いているひとは
鼻水が出るのよと
ドラマを見ながら言ってた母さん
たしかに鼻水は出ますが

いちばん伝えたいひとに
いつも何も伝えられない
手汲みの意味を呼び水に
湿る手のひらを見せあうことなんて

飲みこむ唾で巡るのは
青い期待諦め畏敬絶望戦き確信ありがたみ
っていうかそもそもこんなでごめんなさい
ああ そこだけ殺ぎ取っていかないで

陽を浴びて
白湯を飲んだら
よくなります
さて

 

 

風呂の蛇

照明、追い焚き、換気扇を消して風呂に入ることがある。しばらく湯に浸かり、青い壁を見ていたら、水道の銀色の蛇口の先で、水滴が蛇のようにすっと流れた。暗くて静かなところ、静止画と思っていた視界にいきなり動画が現れて、びくりとした。

 

シャワーからぬるま湯を出す。頭と手を動かして髪を洗う。泡をふくらませて体を洗う。先ほどと打って変わってせわしない動画。今度は何も見ていない。もう蛇口のことしか考えられない。なんで蛇?

 

風呂上がり、化粧水の代わりに辞書へ直行した。英語とドイツ語には雄鶏がいた。オランダ語とロシア語には鶴がいて、フランス語とイタリア語には羊が、アジアには龍がいた!スペイン語には、ライオンと鷲の怪物がいた!

 

アルキメデスを追いかけて、風呂の外で至るユーレカ。おもしろくてにやける。そろそろ服を着よう。

 

 

<参考>

各国の「蛇口」を表す言葉。電子辞書 XD-Z9800 内蔵辞書より。

英語:tap、 faucet はいずれも「樽の栓」、cock、stopcock、turncock は「雄鶏」を語義に含む。
ドイツ語:Wasserhahn。wasser = water、hahn = cock。

オランダ語:kraan。crane(鶴)の意味。日本語「カラン」は浴場などの大型の蛇口で、オランダ語から。
ロシア語:кран。読み方は 「クラーン」。オランダ語から来ていて、意味も同じ。

フランス語:robinet の robin が羊。羊の頭の意。
イタリア語:rubinetto。フランス語と同じ。

繁体字中国語(香港、台湾、マカオ):水龍頭。龍や蛇は水神。
簡体字中国語(中国本土、シンガポール):水龙头。龙が龍、头が頭。

スペイン語:grifo。Gryps、ギリシャ神話に出てくる、鷲の頭と翼、ライオンの胴をもつ怪物グリュプスから。

 

 

芝生をつくる物語

作家のオースティン・クレオンさんが、自分のドメインでブログを始めることを、芝生に例えている。

 

The beauty of owning your turf is that you can do whatever you want with it.
自分の芝生をもつ。やりたいことを何でもできるのが魅力。

It feels good to reclaim my turf. It feels good to have a spot to think out loud in public where people aren’t spitting and shitting all over the place.
土地を開拓して芝にするのは気分がいい。人目を気にせずに、独り言を言える場所があるって気持ちいい。そこには、いたるところで唾を吐いたり、汚したりするような人がいないんだ。

 

私もこの春、自分のドメインを手に入れて、芝生を育て始めた。

システムは、 “CODE IS POETRY”(コードは詩)と言っているWordPressにした。はてなの「書き残そう、あなたの人生の物語」よりも好き。名前の由来もいい。バージョンのコードネームをジャズミュージシャンにちなんでいるのも、BGMが流れているよう。Amebaは電車の中、noteはシェアハウスにいるみたいでやめた。

WordPress のテーマ(デザインテンプレート)は、セルビアの大手テーマプロバイダ、Themes Kingdomから輸入した。 “Themes Kingdom is a small group of dedicated Knights working hard around the table and the clock to make awesome WordPress themes”、すばらしいテーマをつくるために、献身的な騎士たちがテーブルを囲んで休みなく働いてくれている。創業者はメンバーを “Knights of the Round Table”(円卓の騎士:アーサー王物語に登場する騎士たち)、顧客を “Lords and Ladies of the Castle”(城主の紳士淑女のみなさま)と呼ぶ。トラブルの対応時、「騎士が対応中」との知らせが出る。運用にはマニュアルがあるものの、英語だし専門外だしで暗号みたいだった。淑女の名に恥じぬようがんばった。

表札は、フリー素材とフリーソフトでつくった。有志の人々のチュートリアルが心強い。うっかり自分がグラフィックデザイナーに思えた。とはいえ曲線は描けず、直線を駆使した。背伸びはしない。

一角に本棚を置くことにした。アップデートや翻訳の文章がおもしろいTumblrを使う。Otlet’s Shelfという本棚用のテーマは、Amazon.comとの兼用がすばらしく、ボタン一つでAmazonから本の情報と画像を引っ張ってきてくれる。残念ながら Amazon.co.jpには対応していない。すでに開発も終了している。.comのように .co.jpでも使いたかったので、時間をかけて試行錯誤した。1箇所変更して、結果を見て、もとに戻してまた別の場所を変更して、を繰り返し、ようやく何をすべきか解明した。うっかり自分がエンジニアに思えた。

ユーモラスな人たちの手を借りて、私も自分の芝生をつくる。寝転んだり、本を読んだり、手入れをしたりしていると、たまたま通りかかった人に会う。芝生がいい感じ、と定期的に訪れてくれる人もいる。まず自分のための芝生で、好きなことをやりたくて、評価云々もそっちのけなのだが、芝生を介して人と接点を持てることがあるのは嬉しい。ものづくりは、物語づくりだ。

それにしても今日も暑いですね。あ、よかったら一緒にレモネードいかがですか。日陰のほうへどうぞ。

 

 

<参考>

Austin Kleon 氏の著書、 SHOW YOUR WORK(P. 69)
https://austinkleon.com/show-your-work/

A few notes on daily blogging
https://austinkleon.com/2017/11/20/a-few-notes-on-daily-blogging/

WordPress の名前の由来
Besides the technical terminology of WordPress, it is also interesting to know the history of the name, WordPress. The name “WordPress” was originally coined by Christine Tremoulet (see related post) in response to developer Matthew Mullenweg’s desire to associate his new software project with printing presses. In this sense, press refers to the world of reporters, journalists, columnists, and photographers. An aptly chosen name, because WordPress serves as the printing press that enables its users to publish their words.
https://codex.wordpress.org/WordPress_Semantics

WordPress のバージョンとコードネーム
https://ja.wikipedia.org/wiki/WordPress

Themes Kingdomの創業者、Sinisa Komlenic 氏のプロフィール
https://rs.linkedin.com/in/sinisakomlenic