もう少し読み進めたくて、電車を降りたあと、ホームのベンチに移動した。普通列車が止まる小さな駅は、いったん人の流れを見送るとしばらく静かだ。
雲の隙間から、時折太陽が顔を出す。風がちょうどよく吹く。蚊はいない。
きりがないのに気がついて、本を閉じて帰路につく。行く手にすずめがいた。
ぱっと見、私とその生きものだけの空間で、おもしろさを感じ始めるのはなぜだろう。
私が一歩を進めるあいだ、正しくは一歩が着地する寸前に、すずめがたたっと二歩弾む。すずめに合わせる。
ぬきあしさしあししのびあし……リズムがいいな……英語だとつまさきでなんちゃらとか言いそう……あとで辞書ひこ……しまった脱線だ、というかホームから落ちるぞ気をつけろ…………すずめ……sparrow……ジャック・スパロウ……テッテッテレ テッテッテレ テッテッテレ テレ(パイレーツ・オブ・カリビアンのテーマ)……つい獲物を狙うモードになってしまうな……すずめも私も歩いてるだけ……いや、すずめは食べものを探してる…………
すずめと呼んでいるがあれはほんとにすずめか?……
階段へ差しかかる。すずめ(仮)はこちらを一瞥し、そそくさと飛び立った。